“ヴェーダは幾つかの基本的な音声とそのバリエーションから生まれました。微妙な音の変化によって、唱えられている言葉の意味が変わってしまいます。ヴェーダの音声をすべて表記できる文字言語は一つも存在しません。ヴェーダに含まれる多くの言葉は、書写不能です。ヴェーダは神の息吹であり、音声によってのみ人から人へと伝授できるものです。インド全土でも、ヴェーダを正確に唱えられる人は、ほんの一握りしか居ません。”
サティヤ サイ ババ
『サティア サイババとの対話』p.59
以下、バガヴァンの御言葉です。
どんなマントラを唱えるときも、正しいスワラ(音)はとても重要です。わたしはよく、オーム マントラを唱える人を引き合いに出します。かなり多くの人がオームカーラをきわめて機械的に唱え、かつ正しいイントネーションで唱えていません。このマントラは3つの音節、つまり「A(ア)」と「U(ウ)」と「M(ム)」を発して唱えます。「A(ア)」は喉から出ます。「U(ウ)」は舌から、「M(ム)」は唇からです。この3つの音節が結合したもの、すなわちオームは臍から生じます。オームを唱えるように言われると、かなりの人が〔AUMの〕スペルをそのまま〔アウムと〕発音します。これは求められているものではありません。3つの音節すべてが、同時に、一斉に唱えられなければなりません。オームを唱えることは、飛行機が離陸し、空へと上昇して、ついには着陸することにたとえられます。マントラが正しい方法で唱えられたときにのみ、あなたはよい気持ちになります。何人もの人がわたしに言ってきます。「スワミ、わたしはオームカーラを数年来唱えているのですが、いまだに揺るぎのない信仰心をもつことができません」そうです。その通りです。正しいイントネーションで唱えずに、また、その真の意味を理解することなく唱えていて、どうしてそれが可能だというのでしょう?
Dasara Discourses 2002-4, p.5以下は上記の御言葉の映像です。
オームカーラ〔オームの音節〕と他の一切の音との違いは何でしょうか? オームカーラには、その発音のされ方と、それが表している目的において、比類のない特有の性質があります。他の文字を発音するときには、唇と舌と頬(ほお)と顎(あご)が動きます。けれども、オームカーラを発音するときには、そのどれも、まったく動きません。これはオームカーラの類希(たぐいまれ)な特徴です。それゆえ、オームだけは「不滅なるもの(アクシャラム)」と見なされ得るのです。他の音はすべて、さまざまな言語表現です。 オームカーラはヴェーダの土台です。
1984年10月1日 の御講話「オームカーラの比類なき重要性」より
音は原初のプラナヴァ〔聖音オーム〕から生じます。プラナヴァは、A〔アカーラ〕、U〔ウカーラ〕、M〔マカーラ〕という3つの音節でできています。神の正しい住所はオームカーラ〔オームの音節〕です。鐘の音とヴェーダの音も、オームカーラ ナーダ(オームの音)を発しています。オームカーラの発声は、臍から生じる「ア」の音に始まり、それから、喉から生じる「ウ」の音、そして最後に、唇から生じる「ム」で結ばれるという一連の方法で、甘く滑らかになされるべきです。それは、遠くの飛行機の音が空港に近づくにつれてだんだんと大きくなり、最後に着陸して小さくなるかのごとく、発声すべきです。(スワミはここでオームカーラの正しい唱え方を実際に示してくださいました) ヴェーダはこのことをとても明瞭に教えています。
1993年10月18日 のご講話「バーラタの栄えあるヴェーダ遺産」より
Q:「オーム」はどのように唱えるのが正しいのですか?
サイ:「オーム」の音は「AUM」です。「A(ア)」は柔らかく喉から始まります。それは地球です。「U(ウ)」の音は口から生じ、音量が増大します。「M(ム)」の音は、音量を下げながら唇で発音します。遠くで飛行機が飛ぶ音が聞こえ、それが近づくにつれて音が大きくなり、飛び去ってしまうと音が小さくなっていくのに似ています。「A(ア)」はこの世です「U(ウ)」は天界です。「M(ム)」はすべての感覚を越えた神です。
Q:このように完壁に発音できなければどうなりますか?
サイ:愛があれば、完壁なオームの発音を重視し過ぎる必要はありません。母と子を結ぶ絆は愛です。子供が叫んだとして、例えその叫び方が耳障りであっても母親は気にしません。彼女はその子の所に駆けつけて、面倒を見ます。聖なる母はあらゆる場所にいます。スワミはここにいますが、聖なる母はすべての場所にいるのです。ですから誰にでもチャンスがあるのです。誰かが神を熱望するようになれば、聖なる母はそこにいて、恩寵を与えてそれに応えようと待っています。このような事柄は、すべてに関して愛が最も重要です。神への帰依とは、神を愛することです。
本当のオームは自然発生的です。それは両方の鼻孔を通って額の中心まで昇り、耳を通って世界に届きます。それはラジオ塔から発信される放送のようです。
※オームの意味については御講話「オームカーラの比類なき重要性」をご参照ください。
言語の音声には「母音(ぼいん)」と「子音(しいん)」の2種類があります。母音とは、息を口の中で舌などで妨げずに発する音です。日本語でいうと「あ、い、う、え、お」です。サンスクリット語の母音には a、ā、i、ī、u、ū、ṛ、e、ai、o、au があり、これらは短母音(a、i、u、ṛ) と長母音(ā、ī、ū、e、ai、o、au) に分けられます。
逆に子音は息が口を通る時に喉・舌・歯・唇などで妨げ(閉鎖・狭め・摩擦など)を作って発する音です。サンスクリット語では破裂音(閉鎖音)、鼻音(びおん)(ṅ、ñ、ṇ、n、m)、半母音(y、r、l、v)、歯擦音(しさつおん)(ś、ṣ、s)、気音(h)があります。
また、サンスクリット語特有の重要な音として、ヴィサルガ(ḥ)とアヌッスワーラ(ṁ)があります。
※サンスクリット語では e と o は常に長く発音されます。
※非常にまれですが、母音には ṝ や ḷ (質問15参照)、子音には ḻ(質問14参照)もあります。ṝ はこのサイトに掲載されているマントラの中には登場しません。
※子音の後に母音が続かない場合、カタカナでは左上に点がついています。
発音時に、口内で息の流れを妨げる場所のことを「調音部位」と言います。サンスクリット語では主に、口の奥から順に、喉、口蓋(上あご)、反舌、歯、唇の5つの調音部位があり、それぞれから発する音を喉音(こうおん)、口蓋音(こうがいおん)、反舌音(そりじたおん)、歯音(しおん)、唇音(しんおん)と呼びます。
喉音(軟口蓋音)(a、ā、k、kh、g、gh、ṅ、h)
舌の奥の部分を口の奥の喉に近い部分に接触・接近させます。k、kh、g、gh は日本語の「か」「が」より深く、喉の奥から響かせるように意識します。
口蓋音(硬口蓋音)(i、ī、c、ch、j、jh、ñ、y、ś)
舌の中央部分を上あごに接触・接近させます。c、ch、j、jh は、日本語の「ちゃ」「じゃ」のように舌先を使うのではなく、舌の中ほどを上あごにしっかり当てるように意識します。
反舌音(ṛ、ṭ、ṭh、ḍ、ḍh、ṇ、r、ḻ、ṣ)
舌先を反り返して、舌先の裏側を上あごと歯茎の境目付近に接触・接近させます。
歯音( ḷ、t、th、d、dh、n、l、s)
舌先を上の歯の付け根に接触・接近させます。t、th、d、dh、n は、日本語の「た」「だ」「な」(歯茎音)とは異なり、歯茎の隆起部分を避けるようにして、舌先を歯の付け根に下から当てることを意識します(ḷ のみは歯茎の隆起部分に接近させます) 。
唇音(u、ū、p、ph、b、bh、m)
上下の唇を接触・接近させます。
※上記の他に、喉音と口蓋音の混合の e、ai、喉音と唇音の混合の o、au、下唇と上歯とをわずかに接触させる歯唇音の v もあります。
場所だけでなく、「どのように息・音を妨げるか」も重要です。調音部位での息・音の妨げ具合(調音方法)による分類は以下のようになります。
母音:触れない・開ける(a は「締めて開ける」)
接触音(破裂音・鼻音(ṅ、ñ、ṇ、n、m)):しっかり触れる・閉じる
中間音(半母音(y、r、l、v)):わずかに、または部分的に触れる・閉じる
摩擦音(歯擦音(ś、ṣ、s)・気音(h)・ヴィサルガ(ḥ)):わずかに開ける
v は歯唇音で中間音です。下唇の前後の真ん中と上の歯がわずかに触れる程度にして両唇が触れないようにし、両唇が触れる b の発音に聞こえないように注意しましょう。
y は口蓋音で中間音です。舌の中央の両端を上あごに接触させて中央部の非常に狭い隙間から息・音を出します。母音の i (イ)も口蓋音ですがこの接触ありませんので、yi は「ィイ」という感じの音になります。
h は喉音で摩擦音です。舌の奥の部分を口の奥の喉に近い部分に接近させて、その隙間で息が擦れるような音になります。日本語の「ふ」(唇音;両唇の隙間で息が擦れる音)とは調音部位が異なりますので注意しましょう。
子音のうち、調音部位で完全な閉鎖を作り息をせき止めた状態から、その閉鎖を破裂するように急に破った時に発せられる音です。喉音の k、kh、g、gh、口蓋音の c、ch、j、jh、反舌音の ṭ、ṭh、ḍ、ḍh、歯音の t、th、d、dh、唇音の p、ph、b、bh があります。
このうち h が付く kh、gh、ch、jh、ṭh、ḍh、th、dh、ph、bh はマハープラーナ(帯気音)と呼ばれ、アルパプラーナ(無気音)の k、g、c 等よりも息を大きく吐き出しながら発音します。マハープラーナで強く発音しすぎたり、アルパプラーナで息が漏れすぎてマハープラーナに近くならないように気を付けながら、マハープラーナとアルパプラーナの違いが分かるように発音しましょう。
※マハープラーナ(mahāprāṇa)は「大きい息」、アルパプラーナ(alpaprāṇa)は「小さい息」という意味です。
※kh や gh などは、k と h を足した2つの音ではなく、これで「1つの子音(音素)」として扱われます。
※歯擦音(ś、ṣ、s)と気音(h)もマハープラーナで、鼻音(ṅ、ñ、ṇ、n、m)と半母音(y、r、l、v)はアルパプラーナです。母音にはこの区別はありません。
マートラー(mātrā)とはサンスクリット語の音の長さの単位です。短母音(a、i、u、ṛ)は1マートラー(1拍)、長母音(ā、ī、ū、e、ai、o、au)は2マートラー(2拍)で、子音はすべて0.5マートラー(半拍)です。
長母音の後に母音(短母音・長母音)が来る場合は、あいだに1マートラー(1拍)の「間」を置くのが望ましいとされています(『Sruti 永遠のこだま』(USBメモリ版)の通し音源や、SSOJ音源ではこの「間」を空けて唱えています)。短母音の後に母音(短母音・長母音)が来る場合は、特別な「間」を空ける必要はありませんが、前の音を飲み込まないよう、それぞれの母音をはっきりと分けて発音します(短母音の後に ṛ が続く場合を除く)。
※ai、au の a の部分は0.5マートラーで鋭く発音し、その後の i や u の部分は1.5マートラーで、たっぷりと響かせます。
※文はダンダ(daṇḍa)(|)、段落は二重ダンダ(||)で区切られています。文末の文字は短母音であっても(3マートラー程度)延ばして発音します。チャンティングの連続性を保つためです。文が t、k、n で終わる場合は、t、k、n の後に(a と e の中間のような)曖昧母音(ə)を加えた感じで延ばして唱えます。u を加えた tu や ku の音にならないように気を付けましょう。
※文末がヴィサルガか t でその前が長母音の場合は、その長母音は2マートラーよりも長く発音し、ヴィサルガや t の後に加える曖昧母音は延ばしません。
※オームやシャーンティの長音(ー) の長さは比較的自由です。
サンスクリット語の ai(アィー)と au(アゥー)は、2つの母音が組み合わさってできた「複合母音(二重母音)」です。これらは現代のインドの諸言語(ヒンディー語やテルグ語など)とは発音が大きく異なるため、混同しないよう注意が必要です。
ヒンディー語
ai:口を大きく開けた「エー」に近い音(アーとエーの中間)。
au:口を大きく開けた「オー」に近い音(アーとオーの中間)。
サンスクリット語
ai:はっきりと「ア」から始まり「イ」へ流れる音。
au:はっきりと「ア」から始まり「ウ」へ流れる音。
最初の「ア」の部分は0.5マートラーで短く鋭く発音し、その後の「イ」や「ウ」の部分は1.5マートラーでたっぷりと響かせます。このため、日本人に馴染みのある「アイ(1:1)」のような均等な発音ではなく、後半の響きが長く残る「アィー」「アゥー」という独特のリズムになります。これが「エィー」や「オゥー」にならないように注意しましょう。
それぞれ以下のような違いがあります。
ṛ(母音)
カナ:ルの下に点がある文字。
発音:舌先を上の歯茎の裏側に近づけ、隙間から音を響かせる(このとき舌先が震える)。
長さ:1マートラー(1拍)
r(子音)
カナ:後に母音が付かない場合は、ルの左上に点がある文字。
発音:舌先で上の歯茎の背後を弾くようにして音を出す。
長さ:0.5マートラー(半拍)
ru
カナ:ル
発音:子音の r と、母音の u が組み合わさった1つの音節。舌先を弾くと同時に、唇をすぼめて「ル」と発音する。
長さ:1マートラー(1拍)
※理論上は「子音0.5拍+母音1拍」だが、リズム(韻律)の上では母音の長さに合わせて1拍として扱われる。
ヴェーダにおいてスワラ(svara)とは、マントラを唱える際の母音の音程のことです。ヴェーダの文法規則では子音単体にはスワラはありません。スワラは一般的に中音のウダーッタ(udātta)、低音のアヌダーッタ(anudātta)、高音のスワリタ(svarita)、長母音を中音・高音の順で唱えるディールガ スワリタ(dīrgha svarita)の4つがあり、それぞれ以下のように表記されます。
ウダーッタ:a アヌダーッタ:a̱
スワリタ:a̍ ディールガスワリタ:ā̎
同じ単語でもスワラが違うだけでまったく異なる意味になることがありますので、ヴェーダは正しいスワラで唱えることが重要です。
※カタカナではディールガ スワリタのみ表記されており、「アー=」(またはアーー)のように表記されています。
※通常、高音は中音より半音高く、低音は中音より1音低く唱えます。低音は中音より2音半低く唱えるところもあり、アヌダーッタタラ(anudāttatara)またはサンナタラ(sannatara)と呼ばれます。(例)śrī̱ gu̱ru̱byo̱ na̱ma̱ḥ
参考ツール:バーチャルピアノ
複合子音とは、母音を挟まずに2つ以上の子音が連続する集まりのことです。母音の直後に複合子音が来る場合、原則として「最初の子音」または「次の子音」を重複(二重化)させて発音します。
※単語間のスペースをまたいで子音が連続する場合も、同じルールが適用されます。
※すでに同じ子音が重複している場合(tt、mm など)は、それ以上重複させません。
最初の子音が破裂音の場合
最初の子音(破裂音)を重複させます。重複させた2つのうち1つ目は、その調音部位で息をせき止めたまま「無音」にします。これにより、複合子音の前に子音1個分(半拍)の「溜め(ッ)」ができます。
カタカナではサティヤ(satya)、ルドラ(rudra)などと書かれていても、実際のサンスクリットでは破裂音で始まる複合子音(ty、dr)の前に溜めが入り、「サッティヤ」「ルッドラ」のように発音されるのはこのためです。
vitryavatu ⇒ vittryavatu
trya(トリャ)の前に t の溜め(ッ)が入り、「ヴィットリャヴァトゥ」となる。
gurubhyo ⇒ gurubbhyo
最初の子音がマハープラーナの場合、対応するアルパプラーナ(無気音)を前置する。
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【例外】
アヌッスワーラが変化した gṁ、または g+歯擦音(ś、ṣ、s)+子音の場合は、最初の子音(g )ではなく「次の子音」(またはそのまた次の破裂音)を重複させます。
gaṇapatigṁ havamahe ⇒ gaṇapatigmmhavamahe
haināgścaturhotāra ⇒ haināgśccaturhotāra
(無気音の)破裂音の後に、別の破裂音、または鼻音(ṅ、ñ、ṇ、n、m)が続く場合、重複させた子音の1つ目だけでなく、2つ目もほぼ無音(完全な閉鎖)になることが多いです(接触音同士のため)。
vidmahe ⇒ viddmahe
d が2つ連続するが、どちらも息を完全ににせき止めた無音の溜め(ッ)になる。
ts の複合子音は tts ではなく tths となります。
tat savitur ⇒ tatthsavitur
tsa は tthsa となり、「ッツァ」よりも「ッツサ」のように、マハープラーナの息を伴って発音される。
すでに破裂音が2つ並び、その後に非破裂音が続く3重の複合子音(破裂音+破裂音+非破裂音)の場合、最初の子音はそれ以上重複させず、そのまま無音の閉鎖音として機能させます。
最初の子音が非破裂音(r を除く)の場合
対象:歯擦音(ś, ṣ, s)、鼻音(ṅ、ñ、ṇ、n、m)、半母音(y、l、v)、気音(h)
最初の子音を重複させ、「長く引き延ばして」唱えます。延ばす長さは子音2個分(1拍)です。
sarasvatī ⇒ sarassvatī
s を1拍分長く延ばし、「サラスーワティー(サラッスワティー)」のような響きになる。
ただし、次に破裂音が控えている場合、最初の子音(鼻音を除く)は重複させず、代わりに「次の子音(破裂音)」を重複させて溜め(ッ)を作ります。最初の子音自体は短く(半拍)発音します。
upamaśravastamam ⇒ upamaśśravasttamam
前半 śśr は基本ルール通り ś を1拍延ばす。後半の stt では、最初の子音 s は短く(半拍)発音し、続く破裂音 t を重複させて溜めを作る。
gaṇānāṁ tvā ⇒ gaṇānān tvā ⇒ gaṇānānntvā
最初の子音が鼻音(ṅ、ñ、ṇ、n、m)の場合は、次に破裂音が続いても、最初の子音(鼻音)の方をそのまま重複させる。
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【例外】
歯擦音(ś、ṣ、s)+鼻音(ṅ、ñ、ṇ、n、m) の複合子音では、その鼻音と同じ調音部位の無声破裂音を挿入し、この無声破裂音は無音(溜め)として発音されます。
kṛṣṇā ⇒ kṛṣṭṇā
ṣ と ṇ は共に反舌音なので、間に反舌の無声破裂音 ṭ が挿入される。
parame'śmabhutaṁ ⇒ parame'śpmabhutaṁ
ns や nts の複合子音では、音声学的な挿入が起こり、ntths という響きに変化します。
単語の末尾が n で、次の単語が通常 ya または va で始まる場合は、間にコンマ(,)=区切りを入れて発音します(重複・延伸は行わない)。
最初の子音が r の場合
子音 r には「r 自体は絶対に重複させない」という特殊な原則があります。そのため、次の子音を重複させて唱えます。
vājebhirvājinīvatī ⇒ vājebhirvvājinīvatī
r を半拍で短く弾いたあと、後続の v を子音2個分(1拍)に引き延ばす(後続が破裂音の場合は、通常どおり溜め=ッを作る)。
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【例外】
r の後に「歯擦音(ś、ṣ、s)+母音」または「h +母音」が続く場合は、一切の重複を行いません。代わりに、r 自体がまるで母音の ṛ のように1マートラー(1拍)に引き延ばされ、次の音へ滑らかに移る隙間に、ごく短い母音断片「a」(スワラバクティ/ svarabhakti)が自然に挿入されます。
sthapati̍rhataḥ ⇒ sthapati̍rᵊhataḥ
ヴィサルガ(ḥ)は母音の後に続く息の余韻のような音で、おおむね以下のルールに従って発音されます。
文末(単語末ということではなく)にあるときは、直前の母音を発音したのと同じ口の状態のまま 日本語のハ行音のように発音します。
~aḥ ⇒ ~aハ ~āḥ ⇒ ~āハ
~iḥ ⇒ ~iヒ ~īḥ ⇒ ~īヒ
~uḥ ⇒ ~uフ ~ūḥ ⇒ ~ūフ
~eḥ ⇒ ~eヘ ~aiḥ ⇒ ~aiヒ
~oḥ ⇒ ~oホ ~auḥ ⇒ ~auフ
※文はダンダ(daṇḍa)(|)、段落は二重ダンダ(||)で区切られています。
※ヴェーダの学習中などに文を短く区切って唱える場合も、ヴィサルガが最後にある時はこの発音をします。(例:bhadraṁ karṇebhiḥ バッドラン カルネービヒ)
文の途中にあるときは、次の語の頭音によって以下のように発音が変化します。
①次の語の頭音が k、kh の場合
ヴィサルガは直前の母音を発音したのと同じ口の状態のまま舌の根元(jihvāmūla)を持ち上げ、顎の根元との間の隙間を狭めて、そこに短く息を通すことで生じる摩擦の音(無声口蓋垂摩擦音)になります。この音をジッフワームーリーヤ(jihvāmūlīya)と呼びます。
~ḥ k~ ⇒ ~ẖ k~
rudrāya namaḥ kālāya namaḥ kalavikaraṇāya ⇒ ruddrāyanamaẖkkālāyanamaẖkkalavikaraṇāya
ジッフワームーリーヤの後の k が重複される。
※ヴィサルガの次の語の頭音が kṣ のときは、ヴィサルガは上記1のルール(ヴィサルガが文末にあるときのルール)で発音します。
mahad-bhyaḥ , kṣullake-bhyaś-ca ⇒ mahadbhyaハkkṣullakebhyaśca
②次の語の頭音が p、ph の場合
ヴィサルガは上下の唇の隙間を狭めて空気を通りにくくし、そこに「フッ」と短く息を通すことで生じる摩擦の音(無声両唇摩擦音)になります。この音をウパッドマーニーヤ(upadhmānīya)と呼びます。
~ḥ p~ ⇒ ~ḫ p~
svasti prajābhyaḥ pari-pālayantām ⇒ svasttipprajābbhyaḫpparipālayanntām
ウパッドマーニーヤの後の p が重複される。
③次の語の頭音が歯擦音(ś、ṣ、s)の場合
ヴィサルガは同じ歯擦音になります。
~ḥ ś~ ⇒ ~ś ś~
~ḥ ṣ~ ⇒ ~ṣ ṣ~
~ḥ s~ ⇒ ~s s~
śāntiḥ śāntiḥ śāntiḥ ⇒ śānntiśśānntiśśānntiヒー
ś が重複するところでは ś を擦りながら若干伸ばす。最後は文末なのでヒを伸ばす。
※息継ぎをする時など、次の語の頭音にかかわらず、無音になることもあります。
アヌッスワーラ(ṁ)は母音の後に続く鼻の響きで、日本語の「ん」のように、次に続く音によって発音が変わります。 アヌッスワーラは語中、語末に関わらず、おおむね以下のルールに従って発音されます。
①喉音である k、g 、ṅ の前にある場合、 ṁ(アヌッスワーラ) は同じ喉音である ṅ に変えて発音します。
kaviṁ kavīnām ⇒ kaviṅṅkavīnām
②口蓋音である c、j、ñ の前にある場合、ṁ は同じ口蓋音である ñ に変えて発音します。
bahudhā jātaṁ jāyamānaṁ ca yat ⇒ bahudhājātaññjāyamānaññca yat
③歯音である t、d、n の前にある場合、ṁ は同じ歯音である n に変えて発音します。
gaṇānāṁ tvā ⇒ gaṇānānntvā
anyathā śaraṇaṁ nāsti ⇒ annyathāśaraṇannāstti
④唇音である p、b、m の前にある場合、ṁ は m に変えて発音します。
jyeṣṭha-rājaṁ brahmaṇāṁ brahmaṇaspata ⇒ jyeṣṭṭharājammbrammhaṇāmmbrammhaṇasppata
mahīṁ mahīśāḥ ⇒ mahīmmahīśāḥ
~ṁ k/g/ṅ~ (喉音) ⇒ --ṅ k/g/ṅ--
~ṁ c/j/ñ~ (口蓋音) ⇒ ~ñ c/j/ñ~
~ṁ ṭ/ḍ/ṇ~ (反舌音) ⇒ ~ṇ ṭ/ḍ/ṇ~
~ṁ t/d/n~ (歯音) ⇒ ~n t/d/n~
~ṁ p/b/m~ (唇音) ⇒ ~m p/b/m~
※語中のアヌッスワーラの後に破裂音ではじまる複合子音が続く場合は、アヌッスワーラは m として重複させて発音した後、溜めを作って複合子音を発音します(語末のアヌッスワーラの後に破裂音ではじまる複合子音が続く場合も、そのようにすることが多くあります)。
半母音の y、l、v の前にある場合、ṁ はそれぞれの半母音を鼻音化(アヌナースィカ)した音になります。口は閉じずに口と鼻から同時に息・音を出します。
~ṁ y~ ⇒ ~y̐ y~
~ṁ l~ ⇒ ~l̐ l~
~ṁ v~ ⇒ ~v̐ v~
yadamuṁ yamasya ⇒ yadamuy̐y̐yamassya
他の子音(r、歯擦音〔ś, ṣ, s〕、 h )や母音の前にある場合、ṁ は m として発音します(gṁ は常に gm として発音します)。
gaṇapatigṁ havāmahe ⇒ ganapatigmmhavāmahe
サンスクリット語では、h と m が続いている時には、h と m の発音の順番を逆にするというルールがあります。このため、ブラフマ(brahma)と書かれていてもブランマ(ハ)(bramha)というように発音します。
bramha は mh が複合子音ですので、m を重複させて brammha となり、ブラン(bram)の後にmhaをマのマハープラーナで発音します。h と m だけでなく、h と n や、 h と ṇ が続いている時も同様です。
brahma ⇒ bramha ⇒ brammha ブランマ(ハ)
vahni ⇒ vanhi ⇒ vannhi ヴァンニ(ヒ)
ahnā̎m ⇒ anhā̎m ⇒ annhā̎m アンナ(ハ)ーーン
※文章中の綴りは語源を表すものであるため、変えることはできません。たとえば、「日」という意味の ahan という単語は、「日々の」という意味では ahnām と綴り(発音は annhām)、「日に」という意味では ahani と綴ります(発音は ahani)。
【質問9~12に基づいて変換した例】
gaṇānāṁ tvā gaṇapatigṁ havāmmahe kaviṁ kavīnāmupamaśravastamam |
jyeṣṭha-rājaṁ brahmaṇāṁ brahmaṇaspata ā naḥ śṛṇvannutihissīda sādanam ||
praṇo devī sarasvatī vājebhirvājinīvatī |
dhīnāmavitryavatu |
↓変換後
gaṇānānntvāgaṇapatigmmhavāmmahekaviṅṅkavīnāmupamaśśravasttamam |
jyeṣṭṭharājammbrammhaṇāmmbrammhaṇasppataānaśśṛṇṇvannutihissīdasādanam ||
praṇodevīsarassvatīvājebhirvvājinīvatī |
dhīnāmavittryavatu |
※カタカナでは左上に点があるヂと右下に波線があるナの文字で表されます。
jñana や yajña の jña はヒンディー語では「ギャ」、テルグ語(プッタパルティがあるアーンドラ・プラデーシュ州の公用語)では「グニャ」、マラーティー語では「ドニャ」という感じでよく発音されるため、インドにおいても間違って発音されやすい文字となります。
サティヤ サイ出版協会(SSP)の書籍では、カタカナで「グニャ」と表記されていますが、サンスクリット語では jña と表記されている通り、「グニャ」とは発音しません。
サンスクリット語では、 j も ñ も舌の中ほどを上あごにしっかり当てて発音する口蓋音で、同じ調音部位であるため、j の音はほぼ聞こえず「ッニャ」という感じで発音されます。
vijñāna ヴィッニャーナ yajña ヤッニャ jajñire ヂャッニレー
なお、日本語の「じゃ」や「にゃ」は舌先を上の歯につけて発音することがありますが、これはサンスクリット語の「ヂャ」や「ニャ」の発音とは異なります。
反舌音の l(ḻ)は、このサイトに掲載されているマントラの中では、ニーラー スークタム冒頭の nīḻāṁ にしか登場しません。
反舌音ですので、ṭ、ḍ、ṇ と同様、舌先を反らせて上あごに付けて発音します。他の反舌音との発音の違いは以下のようになります。
ṭ:舌先を反らせて上あごに付け、息をせき止めてからその閉鎖を破裂するように急に破って発音
ṇ:舌先を反らせて上あごに付け、鼻を開放して発音
r:舌先で上の歯茎の背後を弾いて発音
ḻ:舌先を反らせて上あごに付け、舌の両側から息を流して発音
古典サンスクリットにはない、ヴェーダ語(ヴェーディック サンスクリット)特有の音です。
母音の l(ḷ)は、このサイトに掲載されているマントラの中では、チャマカム第2アヌヴァーカに出てくる kḷptaṁ と kḷptiś にしか登場しません。
舌先を上の歯茎に近づけて発音します。発音の長さは1マートラー(1拍)です。
母音の l(ḷ)は動詞の語根 kḷp に属する語形および派生語の中にしか現れません。
アヴァッグラハ(avagraha)はアルファベットとカタカナではアポストロフィー「’」で表記され、連音(サンディ)によって語頭の母音 a (「’’」の場合は ā)が消えたことを意味します。アヴァッグラハのところでは息継ぎをしたり「間」を空けないようにしましょう。
yo apām ヨー アパーム ⇒ yo 'pām ヨー’パーム
文と文の間以外では、以下の場所で息継ぎすることができます。ただし、単語のつづりの途中(※)やアヴァッグラハ(「’」;質問16参照)の前では息継ぎはできません。単語のつづりが変わって意味とチャンティングの効果に影響があるためです。無意識に息継ぎをしてしまうことがありますので気を付けましょう。
※単語は英語のように各文章内でスペースやハイフンで区分されています。
ルッドラムのように上記でも間に合わない場合は以下で対応できます。
長母音と子音の間(長母音を少し短くすることでできた時間で息継ぎする)
短母音と母音の間(短母音を少し短くすることでできた時間で息継ぎする)
息継ぎをした後は、息継ぎをしない場合と同じタイミングで次の単語の発音に入るようにし、遅れないように注意しましょう。
※一人だけで唱えるときは他の人と声を合わせる必要がないので、ある程度自分のリズムで息継ぎすることができます。
『ヴェーダ テキスト1』 SSOJ霊性部ヴェーダ委員会編 サティヤ サイ出版協会刊
『わかりやすいサンスクリット語の正しい発音と表記 - 詳しい理論解説と発音矯正指導』 Medha Michika 著
『タイッティリーヤ プラーティシャーキャ』第14章「重子音化の規則」 SSOJヴェーダ チーム
『サイラムニュース』2009年5・6月号「ヴェーダを吟唱するにあたっての注意点」
SaiVeda(英語)
Sri Sathya Sai International Organization による国際ヴェーダプログラムの動画「ルッドラム マスタークラス」(英語)
Sri Sathya Sai Seva Organisations, India によるE-ラーニング プログラム、Sri Sathya Sai Samyukta Sruti Sreni のトレーナー用資料(「Śruta Mārgadarśaka: A Primer Vedic Sanskrit: Basics」、「Anuswara-Visarga Rules- English」)