発音について
1. オームはどのように唱えるのが正しいですか?
以下、バガヴァンの御言葉です。
どんなマントラを唱えるときも、正しいスワラ(音)はとても重要です。わたしはよく、オーム マントラを唱える人を引き合いに出します。かなり多くの人がオームカーラをきわめて機械的に唱え、かつ正しいイントネーションで唱えていません。このマントラは3つの音節、つまり「A(ア)」と「U(ウ)」と「M(ム)」を発して唱えます。「A(ア)」は喉から出ます。「U(ウ)」は舌から、「M(ム)」は唇からです。この3つの音節が結合したもの、すなわちオームは臍から生じます。オームを唱えるように言われると、かなりの人が〔AUMの〕スペルをそのまま〔アウムと〕発音します。これは求められているものではありません。3つの音節すべてが、同時に、一斉に唱えられなければなりません。オームを唱えることは、飛行機が離陸し、空へと上昇して、ついには着陸することにたとえられます。マントラが正しい方法で唱えられたときにのみ、あなたはよい気持ちになります。何人もの人がわたしに言ってきます。「スワミ、わたしはオームカーラを数年来唱えているのですが、いまだに揺るぎのない信仰心をもつことができません」そうです。その通りです。正しいイントネーションで唱えずに、また、その真の意味を理解することなく唱えていて、どうしてそれが可能だというのでしょう?
Dasara Discourses 2002-4, p.5以下は上記の御言葉の映像です。
オームカーラ〔オームの音節〕と他の一切の音との違いは何でしょうか? オームカーラには、その発音のされ方と、それが表している目的において、比類のない特有の性質があります。他の文字を発音するときには、唇と舌と頬(ほお)と顎(あご)が動きます。けれども、オームカーラを発音するときには、そのどれも、まったく動きません。これはオームカーラの類(たぐい)希(まれ)な特徴です。それゆえ、オームだけは「不滅なるもの(アクシャラム)」と見なされ得るのです。他の音はすべて、さまざまな言語表現です。 オームカーラはヴェーダの土台です。
1984年10月1日 の御講話「オームカーラの比類なき重要性」よりQ:「オーム」はどのように唱えるのが正しいのですか?
サイ:「オーム」の音は「AUM」です。「A(ア)」は柔らかく喉から始まります。それは地球です。「U(ウ)」の音は口から生じ、音量が増大します。「M(ム)」の音は、音量を下げながら唇で発音します。遠くで飛行機が飛ぶ音が聞こえ、それが近づくにつれて音が大きくなり、飛び去ってしまうと音が小さくなっていくのに似ています。「A(ア)」はこの世です「U(ウ)」は天界です。「M(ム)」はすべての感覚を越えた神です。
Q:このように完壁に発音できなければどうなりますか?
サイ:愛があれば、完壁なオームの発音を重視し過ぎる必要はありません。母と子を結ぶ絆は愛です。子供が叫んだとして、例えその叫び方が耳障りであっても母親は気にしません。彼女はその子の所に駆けつけて、面倒を見ます。聖なる母はあらゆる場所にいます。スワミはここにいますが、聖なる母はすべての場所にいるのです。ですから誰にでもチャンスがあるのです。誰かが神を熱望するようになれば、聖なる母はそこにいて、恩寵を与えてそれに応えようと待っています。このような事柄は、すべてに関して愛が最も重要です。神への帰依とは、神を愛することです。
本当のオームは自然発生的です。それは両方の鼻孔を通って額の中心まで昇り、耳を通って世界に届きます。それはラジオ塔から発信される放送のようです。
『バガヴァン シュリ サティア サイババとの対話』p.170-171
オームの意味については御講話「オームカーラの比類なき重要性」をご参照ください。
2. ai、auの発音は、音源によって異なっていたり、意見が異なることがあるのですが、どのように発音するのがよいですか?
ヴェーダはシルティ(聴かれたもの)であり、学問的にこれが正しく、これに統一しますという例はありません。SSPが販売しているCDの音源は、その時点でもっともお手本としてよいと思われるものを選んでいます。
一方で、サンスクリット語とヒンディー語、その他のインドの言語は、それぞれまったく異なった言語ですが、同じ文字を使用していたり、同じインドということで混同しやすくなっています。実際は、文法、発音、名詞など、明確に区別する必要があります(日本での現状では特にサンスクリット語、ヒンディー語、テルグ語の混同が多いです)。
(例)
ヒンディー語の場合
ai : アェー ※アーとエーの中間(もう少し口を開けるエーの要領)
au : アォー ※アーとオーの中間(もう少し口を開けるオーの要領)
サンスクリット語の場合
ai : アィー
au : アゥー
※学問的には、ai は軟口蓋音と硬口蓋音の混合、au は軟口蓋音と両唇音の混合になります。
4. ヴィサルガはどのように発音するのですか?
※ヴィサルガは無声の気音で、h の下に点〈ḥ〉や、ハ行の下に点が付いた文字で表されます。
ヴィサルガはおおむね以下のルールに従って発音されます。
1. 文の末尾(単語の末尾ということではなく)にあるときは、直前の母音を発音したのと同じ口の状態のまま 日本語のハ行音のように発音します。
--aḥ ⇒ --aハ
--āḥ ⇒ --āハ
--iḥ ⇒ --iヒ
--īḥ ⇒ --īヒ
--uḥ ⇒ --uフ
--ūḥ ⇒ --ūフ
--eḥ ⇒ --eヘ
--aiḥ ⇒ --aiヒ
--oḥ ⇒ --oホ
--auḥ ⇒ --auフ
※ヴェーダの学習をしているときに、先生が単語ごとに分けて唱える場合も、ヴィサルガの部分で区切る時は、この発音をします。(例:バッドラム カルネービヒ)
2. 文の途中にあるときは、次の語の頭音によって以下のように発音が変化します。
(1) 次の語の頭音が k、kh のときは、ヴィサルガは直前の母音を発音したのと同じ口の状態のまま舌の後方を持ち上げ、喉の隙間を狭めて空気を通りにくくし、そこに短く息を通すことで生じる摩擦の音(無声口蓋垂摩擦音)になります。この音をジッフワームーリーヤ(jihvāmūlīya)と呼びます。
--ḥ k-- ⇒ --ẖ k--
ただし、次の語の頭音が kṣ のときは、ヴィサルガは上記1のルールで発音します。
(2) 次の語の頭音が p、ph のときは、ヴィサルガは上下の唇の隙間を狭めて空気を通りにくくし、そこに「フッ」と短く息を通すことで生じる摩擦の音(無声両唇摩擦音)になります。この音をウパッドマーニーヤ(upadhmānīya)と呼びます。
--ḥ p-- ⇒ --ḫ p--
(3) 次の語の頭音が歯擦音(ś, ṣ, s)のときは、ヴィサルガは同じ歯擦音になります。
--ḥ ś-- ⇒ --ś ś--
--ḥ ṣ-- ⇒ --ṣ ṣ--
--ḥ s-- ⇒ --s s--
※次の語の頭音にかかわらず、無音になることもあります。
※直前の母音が長母音(ā, ī, ū, e、ai、o、au)の場合は、ほとんど発音されないことがあります。
5. アヌッスワーラはどのように発音するのですか?
※アヌッスワーラは m の上に点〈ṁ〉や、ムの下に点が付いた文字で表されます。
4種類の n(ṅ, ñ, ṇ, n)と m の音は「鼻音」と呼ばれますが、アヌッスワーラ(ṁ)は次に続く音によって発音が異なり、「特別鼻音」と呼ばれています。 日本語の撥音(はつおん)「ン」も次に続く音によって発音が変わりますが、これとよく似ています。
アヌッスワーラは語中、語末に関わらず、おおむね以下のルールに従って発音されます。
1. 破裂音(k, g, c, j, ṭ, ḍ, t, d, p, b)または鼻音(ṅ, ñ, ṇ, n, m)の前にあるなら、その破裂音や鼻音と同じ調音位置の鼻音になります。
つまり、ṁ(アヌッスワーラ)の後に k または g または ṅ が来る場合は、k と g と ṅ は喉の音なので、 ṁ を同じ喉音(軟口蓋音)である ṅ に変えて発音します。例えば、kaviṁ kavīnām の場合、kaviṅ kavīnāmと発音します。
ṁ の後に c または j または ñ が来る場合は、c と j と ñ は上顎(硬口蓋)の音なので、ṁ を同じ硬口蓋音である ñ に変えて発音します。例えば、bahudhā jātaṁ jāyamānaṁ ca yat は、bahudhā jātañ jāyamānañ ca yat と発音します。
ṁ の後に t または d または n が来る場合は、t と d と n は歯の音なので、ṁ を同じ歯音である n に変えて発音します。例えば、gaṇānāṁ tvā は gaṇānān tvā と発音します。また、anyathā śaraṇaṁ nāsti は anyathā śaraṇan nāsti と発音します。
ṁ の後に p または b または m が来る場合は、p と b とm は唇の音なので、ṁ を同じ両唇音である m に変えて発音します。例えば、jyeṣṭha-rājaṁ brahmaṇāṁ brahmaṇaspata は、jyeṣṭha-rājam brahmaṇām brahmaṇaspata と発音します。また、mahīṁ mahīśāḥ は mahīm mahīśāḥ と発音します。
--ṁ+k, g, ṅ-- (軟口蓋音=喉音こうおん) ⇒ --ṅ+k, g, ṅ--
--ṁ+c, j, ñ-- (硬口蓋音=口蓋音こうがいおん) ⇒ --ñ+c, j, ñ--
--ṁ+ṭ, ḍ, ṇ-- (反舌音そりじたおん) ⇒ --ṇ+ṭ, ḍ, ṇ--
--ṁ+t, d, n-- (歯音しおん) ⇒ --n+t, d, n--
--ṁ+p, b, m-- (両唇音りょうしんおん) ⇒ --m+p, b, m--
2. 母音、歯擦音(ś, ṣ, s)、 h 、r の前にあるなら、口を自然に閉じて、ハミングするときのように息をすべて鼻へと通します。
--ṁ+ś, ṣ, s, h, r-- ⇒ --m̐+ś, ṣ, s, h, r--
(例)gaṇapatigṁ havāmahe ⇒ ganapatigm̐ havāmahe
3. 半母音のy、l、v の前にあるなら、それぞれの半母音を鼻音化した音(アヌナースィカ)になります。口は閉じずに口と鼻から同時に息を流します。
--ṁ+y-- ⇒ --y̐+y--
--ṁ+l-- ⇒ --l̐+l--
--ṁ+v-- ⇒ --v̐+v--
(例)yadamuṁ yamasya ⇒ yadamuy̐ yamasya
6. 母音のル と子音(半母音)の ル の発音の違いについて教えてください
それぞれ以下のような違いがあります。
母音の ṛ
カタカナでは「ル」の下に点がある文字で表記
舌を反らせて、息を吐きながら上顎の中ほどで舌先を震わせて(いわゆる巻き舌で)発音する。この時、舌が上顎に完全には接触することのないようにする
発音の長さ:1マートラー(1拍)
子音(半母音)の r
後に母音が付かない場合、カタカナでは「ル」の左上に点がある文字で表記
舌を反らせて舌先を軽く震わせ、上顎の前の方を軽く弾いて発音する
発音の長さ:半マートラー(半拍)
子音の r+母音の u=ru
カタカナでは点を付けずに普通に「ル」と表記
子音の r の後に両唇音の u がついているので、唇をすぼめて発音する
発音の長さ:1.5マートラー(1拍半)
7.グニャーナやヤッグニャのグニャ(jña※)の発音の仕方を教えてください
※カタカナでは左上に点があるヂと右下に波線があるナの文字で表される。
これはヒンディー語では「ギャ」、テルグ語(プッタパルティがあるアーンドラ・プラデーシュ州の公用語)では「グニャ」、マラーティー語では「ドニャ」という感じでよく発音されるため、インドにおいても間違って発音されやすい文字となります。
サティヤ サイ出版協会(SSP)の書籍では、カタカナで「グニャ」と表記されていますが、サンスクリット語では jña と表記されている通り、「グニャ」とは発音しません。
サンスクリット語では、 j も ñ も舌の前方から中ほどを上顎に密着させて発音する口蓋音(硬口蓋音)で、同じ調音位置であるため、j の音はほぼ聞こえず「ッニャ」という感じで発音されます。
(例)vijñāna ヴィッニャーナ
yajña ヤッニャ
jajñire ヂャッニレー
なお、日本語の「じゃ」や「にゃ」は舌先を歯につけて発音することがありますが、これはサンスクリット語の「ヂャ」や「ニャ」の発音とは異なります。
8. ニーラー スークタムのニーラーの「ラ」※はどのように発音するのですか?
※l の下に下線〈ḻ 〉や、ラの右下に縦線2本が付いた文字で表される。
これはそり舌音の la になります。
そり舌音ですので、ṭa、ḍa、ṇa と同様、舌を反らせて舌先を上顎に付けて発音します。他のそり舌音との発音の違いは以下のようになります。
ṭa:舌を反らせて舌先で上顎を強く弾く
ra:舌を反らせて舌先で上顎を軽く弾く
ṇa:舌を反らせて舌先を上顎に付け息を鼻にも通す
ḻa:舌を反らせて舌先を上顎に付け息を舌の両脇に通す
国際音声記号ではそり舌側面接近音にあたります。
古典サンスクリットにはない、ヴェーダ語(ヴェーディック サンスクリット)特有の音で、このサイトに掲載されているマントラの中では、ニーラー スークタムのニーラーのラーにしか登場しません。
9. チャマカム第2アヌヴァーカの最後の方に出てくる「クルプタン」の「ル」※はどのように発音するのですか?
※l の下に点〈ḷ〉や、ルの右下に点と縦線1本が付いた文字で表される。
これは母音の l になります。
舌先を上の前歯の裏側に近づけて、息を吐きながら舌先を震わせて発音します。発音の長さは1マートラー(1拍)です。
この「ル」は動詞の語根 kḷp に属する語形および派生語の中にしか現れず、このサイトに掲載されているマントラの中では、チャマカム第2アヌヴァーカの最後の方に出てくる「クルプタン」と「クルプティシ」の「ル」にしか登場しません。